土木学会選奨土木遺産とは
土木遺産の顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的として、平成12年に認定制度を設立いたしました。
推薦および一般公募により、年間20件程度を選出しています。
新たに14件を追加し、国内外の選奨土木遺産は累計で531件となりました。
公益社団法人土木学会(会長:佐々木 葉)では、土木学会選奨土木遺産委員会(委員長:天野光一)を設置し、社会へのアピール、土木技術者へのアピール、まちづくりへの活用などを促すことを目的に近代土木遺産(原則として、竣工後50年を経過したもの)を対象として、土木学会選奨土木遺産の認定を行っております。
このたび2024年8月7日に開催された委員会において令和6年度土木学会選奨土木遺産14件を選定し、2024年9月20日に開催した弊会理事会において認定が承認されましたので、ここに公表いたします。
今後は11月18日の土木の日を中心に、土木学会の各支部で選奨土木遺産認定書授与式の実施を予定しております。
令和6年度土木学会選奨土木遺産
旧岩保木水門 きゅういわぼっきすいもん
■認定理由
旧岩保木水門は、釧路の発展に寄与した新釧路川開削を象徴し、後年増築された木造上屋が特徴的な道内最古の鉄筋コンクリート造水門です。
■所在地
北海道釧路町
■竣工年
1931(昭和6)年
奥行臼の交通施設群 おくゆきうすこうつうしせつぐん
■認定理由
奥行臼の交通施設群は、近現代の根釧地方の開拓と酪農振興、人々の定住に貢献した交通土木施設が、各年代のシステムとして一箇所に現存する唯一の遺産群です。
■所在地
北海道別海町
■竣工年
1910(明治43)年~1964(昭和39)年
黒川橋梁(上り線) くろかわきょうりょう(のぼりせん)
■認定理由
黒川橋梁(上り線)は、近代の鉄道技術を伝える貴重な鋼ワーレントラス橋で、重厚感漂う壮大な石張り橋脚が連続する圧倒的スケールの優美な鉄道橋梁です。
■所在地
栃木県那須町~福島県白河市
■竣工年
1920(大正9)年
駒形橋 こまがたばし
■認定理由
駒形橋は、隅田川に架かる関東大震災の復興橋梁であり、国内初の本格的鋼中路式アーチ橋として歴史的に価値の高い貴重な土木遺産です。
■所在地
東京都台東区~墨田区
■竣工年
1927(昭和2)年
相模大橋 さがみおおはし
■認定理由
相模大橋は、国内で初めて、20t荷重で設計され、主桁の大半に高張力鋼を用いた橋梁で、我が国の橋梁技術発展の礎となった貴重な土木遺産です。
■所在地
神奈川県厚木市~海老名市
■竣工年
1955(昭和30)年
覚王山ずい道 かくおうざんずいどう
■認定理由
覚王山ずい道は、都市部における国内初の開放型手掘り式シールド工法、円形断面シールドと鉄筋コンクリート製セグメントを採用した地下鉄トンネルです。
■所在地
愛知県名古屋市千種区
■竣工年
1963(昭和38)年
犬山橋 いぬやまばし
■認定理由
犬山橋は、大正時代に樺島正義が鉄道道路併用橋として設計し鉄道橋へ改修された、オベリスク様の親柱が残る3連の鋼ワーレントラス橋です。
■所在地
愛知県犬山市~岐阜県各務原市
■竣工年
1925(大正14)年→2000(平成12)年に鉄道専用橋として改修
大谷〜大津間の開業時の鉄道遺構
おおたに〜おおつかんのかいぎょうじのてつどういこう
■認定理由
大谷〜大津間の開業時の鉄道遺構は、初めてわが国の技術者・技能者だけで建設された明治13年の鉄道遺構で、わが国の鉄道技術の自立を示す貴重な土木遺産です。
■所在地
滋賀県大津市
■竣工年
逢坂山ずい道:1880(明治13)年
旧上関寺町架道橋橋台:1880(明治13)年→1921(大正10)年に橋桁撤去
逢坂地下道:1879(明治12)年
林田隧道 はやしだずいどう
■認定理由
林田隧道は、摂津・丹波間の交通の難所を解消するため建設され、石ポータルを有する現役の道路隧道の中で日本最古の土木遺産です。
■所在地
兵庫県猪名川町
■竣工年
1883(明治16)年→1984(昭和59)年改修(ボックスカルバート継足・覆工コンクリート設置)
阪神甲子園球場・枝川橋梁
はんしんこうしえんきゅうじょう・えだがわきょうりょう
■認定理由
阪神甲子園球場・枝川橋梁は、我が国最古の本格的野球場と地域拠点の鉄道駅を支える橋梁で、廃川敷に計画・開発された「甲子園開発」を象徴する貴重な施設です。
■所在地
兵庫県西宮市
■竣工年
阪神甲子園球場:1924(大正13)年→外野の築堤式スタンドを1929(昭和4)年にRC造(アルプススタンド),1936(昭和11)年に全てをRC造に改修
枝川橋梁:1925(大正14)年
港大橋 みなとおおはし
■認定理由
港大橋は、規模、材料、工法ともに我が国のトラス橋の到達点を示した、中央径間長としては日本最長、世界第3位のゲルバートラス橋です。
■所在地
大阪府大阪市
■竣工年
1974(昭和49)年
目の字形ラーメン橋-志谷川橋梁、日向川橋梁
めのじがたらーめんきょうーしたにがわきょうりょう、
ひなたがわきょうりょう
■認定理由
志谷川橋梁、日向川橋梁は、三江線でのみ採用された極めて珍しい目の字形鉄筋コンクリートラーメン橋です。
■所在地
島根県川本町
■竣工年
1934(昭和9)年(開通年)
瀬詰橋 せづめばし
■認定理由
瀬詰橋は、吉野川支流の川田川に架かる旧道の橋で、大正時代の中路式鋼鈑桁橋は希少であり、左岸に建設当時の親柱が現存する貴重な土木遺産です。
■所在地
徳島県吉野川市
■竣工年
1925(大正14)年
尾鈴橋 おすずばし
■認定理由
尾鈴橋は、戦後初めて支間長100mを超え、恐竜を彷彿させるダイナミックなフォルムが特徴の戦後復興期を代表する貴重な土木遺産です。
■所在地
宮崎県木城町~日向市
■竣工年
1951(昭和26)年
土木学会選奨土木遺産について
選奨土木遺産の概要
土木学会選奨土木遺産の認定は、土木遺産の顕彰を通じて、歴史的土木構造物の保存に資することを目的として2000(平成12)年度に創設され、土木学会選奨土木遺産委員会が選考を行っております。2024(令和6)年度までの累計で531件が認定されており、土木学会ではこの認定により、
・社会へのアピール(土木遺産の文化的価値の評価、社会への理解等)
・土木技術者へのアピール(先輩技術者の仕事への敬意、将来の文化財創出への認識と責任の自覚等の喚起)
・まちづくりへの活用(土木遺産は、地域の自然や歴史・文化を中心とした地域資産の核となるものであるとの認識の喚起)
・失われるおそれのある土木遺産の救済(貴重な土木遺産の保護)
などが促されることを期待しています。
○賞の設立
2000(平成12)年度
○対 象
交通(道路、鉄道、港湾、河川、航空、灯標)、防災(治水、防潮、防風)、農林水産業(灌漑、干拓、排水、営林、漁港)、エネルギー(発電、炭田、鉱山)、衛生(上下水道)、産業(工業用水、造船)、軍事などの用途に供された広義の土木関連施設で、原則として、竣工後50 年を経過したもの
○選考方法
支部推薦および公募の中から土木学会選奨土木遺産委員会が選考する
○件数
毎年 20 件程度
○賞 牌
青銅製の銘板(30cm×20cm)を授与する
過去に選定された選奨土木遺産は土木学会ホームページでご覧いただけます。
土木学会支部所在地・連絡先
○北海道支部
〒060-0061 札幌市中央区南1条西2丁目 南1条Kビル8F
TEL 011-261-7742・011-251-7038 FAX 011-251-7038
○東北支部
〒980-0014 仙台市青葉区本町2-5-1 オーク仙台ビル3階
TEL 022-222-8509 FAX 022-263-8363
○関東支部
〒160-0017 東京都新宿区左門町6-17 SANOU BLD.5F
TEL 03-3358-6620 FAX 03-3358-6623
○中部支部
〒460-0008 名古屋市中区栄2-9-26 ポーラ名古屋ビル8F
TEL 052-222-3705 FAX 052-222-3773
○関西支部
〒541-0055 大阪府大阪市中央区船場中央2-1-4-409
TEL 06-6271-6686 FAX 06-6271-6485
○中国支部
〒730-0017 広島市中区鉄砲町1-18 佐々木ビル8F
TEL 082-222-2376 FAX 082-222-2496
○四国支部
〒760-0066 高松市福岡町3-11-22 建設クリエイトビル
TEL 087-851-3315 FAX 087-851-3313
○西部支部
〒810-0041 福岡市中央区大名2-4-12 CTI福岡ビル1F
TEL 092-717-6031 FAX 092-717-6032
関連情報
公益社団法人土木学会
提言(抜粋)
「流域全体における水収支の把握と領域の垣根を越えた協働で進める流域治水」を公表
~流域内の水量バランスを全住民が知り、考え、行動するために~
公益社団法人土木学会(会長 佐々木 葉)は、2024年7月26日に、提言「流域全体における水収支の把握と領域の垣根を越えた協働で進める流域治水~流域内の水量バランスを全住民が知り,考え,行動するために~」を公表しました。
本提言は、土木学会が2020年1月、2021年4月に公表した流域治水に関わる提言・声明と、流域治水施策の現状とを照らし合わせ、今後の課題を浮き彫りにすることを目的に立ち上げた「土木学会豪雨災害対策総合検討委員会フォローアップ WG」(委員長 塚原 健一・九州大学)が、様々な被災状況と治水対策を視察しつつ、二年間議論を重ねてきた成果を公表したものです。
提言のポイント
以下の二点が今後の流域治水施策の推進に重要であるとの認識に至りました。
【1】本川、支川、用排水路、下水道、氾濫水および地下水の相互作用を考慮した一体解析により、流域全体における水収支を見える化することが,住民にリスクと治水効果をわかりやすく示すとともに,今後の施策を検討する上で有効である
流域全体で、降雨量、土中への浸透量、貯留量、河道への流出量、河道貯留量、河道流下量および氾濫量を捉え、各水量が時系列でどのように変化するのかを示した「流域水収支図」(図1)の活用を提案しています。
図 1 流域水収支図の例(令和2年7月豪雨時の人吉流域の流域水収支図)福岡ら(2023)
「豪雨時における人吉市内の内水氾濫機構の分析と被害軽減に向けた検討」より
また、流下能力のボトルネックを明示し、治水施策完了時までの各整備段階において、どの程度の規模、発生頻度の降雨で、どの領域から、どの程度浸水するのかがわかる「多段階リスク明示型浸水想定図」(図2)をこの「流域水収支図」とリンクさせることについても提案しております。
図 2 国土交通省作成の多段階浸水想定図(左)と
その重ね合わせで作られる水害リスクマップ(右)
【2】治水だけでなく、利水、自然環境、親水、文化、および経済活動も踏まえた流域の目標像を考えるには、国・都道府県・市区町村、多分野の研究者、民間企業、地域住民による連携が必要である
まずは全住民が各流域の自然特性をその成り立ちと共に理解し、その地域で歴史的に築かれてきた社会的・経済的特性との関係を様々な情報から総合的に把握、共有することから始めることが必要で、その上で具体的な連携の例として、大学の研究者や国の研究機関が河川管理者と協働して流域治水に関わるケーススタディーを行って成果を発信すること、多段階リスク明示型浸水想定図や流域水収支図を活用した水害保険を設計すること、幅広い層に訴えられる多層的な情報発信方法を検討すること、自治体が観測体制を強化するための支援策を検討すること、10~20年後を見据えた土地利用計画と治水事業と調和させること、流域水収支図を用いて森林や田んぼダムの浸透、貯留能力の改善を検討することなどをあげています。
鎹八咫烏 記
石川県 いしかわ観光特使
伊勢「斎宮」明和町観光大使
協力(敬称略)
紅山子(こうざんし)
※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。
アーカイブ リンク記事をご覧ください。
世界かんがい施設遺産登録施設(2019年)
「世界かんがい施設遺産候補4施設を登録決定!(1)」
国際かんがい排水委員会(ICID)は、令和元年9月4日(水曜日)にインドネシア・バリで開催された第70回国際執行理事会において、ICID日本国内委員会が世界かんがい施設遺産候補として申請した4施設を世界かんがい施設遺産として登録することを決定しました。
世界かんがい施設遺産とは
• 世界かんがい施設遺産(World Heritage Irrigation Structures)は、かんがいの歴 史・発展を明らかにし、理解醸成を図るとともに、かんがい施設の適切な保全に資 するために、歴史的なかんがい施設を国際かんがい排水委員会(ICID)が認定・ 登録する制度です。
• この目的は登録により、かんがい施設の持続的な活用・保全方法の蓄積、研究者・一般市民 への教育機会の提供、かんがい施設の維持管理に関する意識向上に寄与すると ともに、かんがい施設を核とした地域づくりに活用していくことです。
• 世界かんがい施設遺産の対象施設・登録基準
〇 建設から100年以上経過(供用廃止施設も対象)
〇 次のいずれかの施設
①ダム(かんがいが主目的) ②ため池等の貯水施設 ③堰、分水施設 ④水路 ⑤排水施設 ⑥古い水車 など
〇 9項目の基準のうち1つ以上満たす施設
【9項目のうち主な基準】
①かんがい農業の画期的な発展、食料増産、農家の経済状況改善に資するもの
②構想、設計、施工、規模等が当時としては先進的なもの、卓越した技術であった もの
③設計、建設における環境配慮の模範となるもの 等
国際かんがい排水委員会の審査結果について
世界かんがい施設遺産は、かんがいの歴史・発展を明らかにし、理解醸成を図るとともに、かんがい施設の適切な保全に資するために、歴史的なかんがい施設を国際かんがい排水委員会(以下「ICID」という)が認定・登録する制度であり、平成26年度に創設されました。
(詳細は下記のURLよりご覧ください。)
ZIPANG-3 TOKIO 2020 国際かんがい排水委員会(ICID)「世界かんがい施設遺産候補4施設を登録決定!(1)」
https://tokyo2020-3.themedia.jp/posts/6913538
世界かんがい施設遺産候補4施設を登録決定!(2)
世界かんがい施設遺産認定書
国際かんがい排水委員会(ICID)は、令和元年9月4日(水曜日)にインドネシア・バリで開催された第70回国際執行理事会において、ICID日本国内委員会が世界かんがい施設遺産候補として申請した4施設を世界かんがい施設遺産として登録することを決定しました。
世界かんがい施設遺産十石堀 滝の沢水門
十石堀の概要
十石堀は、農民自らの発意と計画により、1669年に建設された用水施設であり、用水路延長約15km、取水水門2ヶ所、分水工2ヶ所、最大取水量毎秒0.36m3、受益面積は78haです。鉄筋コンクリート三面張り水路に改修されている区間もありますが、水源から約2kmの区間は、建設後、350年が経過した現在でも建設当時の姿のまま利用されています。
十石堀が位置する北茨城市は東が太平洋に接していますが、市域の85%を山地と台地が占めているため、海岸近くまで山地と台地が迫っています。
当時、この台地上にある農地は、水源が天水のみであるため、毎年のように水不足によって農作物が収穫できないという被害を受け、農民たちは大変困窮していました。そこで、1668年に、当時の村長であった沼田主計(ぬまたかずえ)は、水不足の解消と新田の開発を目的として用水路の建設を計画し、この地域を支配する領主に願い出ました。
当時の技術水準では、水を大北川から取り入れて台地上へ送ることはできませんでした。そこで、農民らは協力し、水源を直線距離で6km、標高300mの奥深い山中にある大北川の支流に探し出し、そこから自然の地形を巧みに活用しながら、急峻な山の斜面に延長約13kmにも及ぶ用水路を建設するという当時としては革新的な計画を立案しました。
計画を立案した当初、領主は、難工事が予想されたため、建設を認めませんでした。しかし、領主は、立案者である沼田主計の命を賭した決意に動かされ、建設を認めました。
工事は1668年の8月に始まり、農民らの協力によってわずか約半年後の1669年3月に完成しました。また、建設資材は農民が自分たちの山から調達し、建設費用を領主が見積った額の約10分の1に縮減することができました。
十石堀の水は、松井地区、日棚地区、粟野地区の3地区で利用されました。領主は、十石堀の建設と新田の開発に功績があったとして沼田主計を称え、開発された新田のうち、沼田主計にかかり租税を免除しました。沼田主計が租税を免除された新田の米の収穫高が約10石であったことから、建設された用水路は十石堀と呼ばれるようになりました。
この十石堀で建設された導水路「掘割」は、自然の地形が巧みに活かされ、現在も建設当時の姿のまま利用されており、その歴史的価値から北茨城市指定史跡に指定されています。
(詳細は下記のURLよりご覧ください。)
ZIPANG-3 TOKIO 2020 国際かんがい排水委員会(ICID)「世界かんがい施設遺産候補4施設を登録決定!(2)」
https://tokyo2020-3.themedia.jp/posts/6917061
くらしのインフラストラクチャーの デザイン・色彩
国宝・犬山城を眺めながら、鵜飼舟で橋の下をくぐると400年古の風景が蘇る
景観デザインの原則
1:風土・伝統を活かし 未来をつくる。
2:白・黒・グレー・自然素材色が日本の風景の基本である。
3:地域全体を見渡し、風土伝統と構造と機能性から景観のあるべき姿をイメージする。
デザイン・色彩の原則は、野山には植物の色より鮮やかなグリーン系を止める。
海・水辺には空の青、水の青より鮮やかなブルー系は使わない。理由は海や山の自然の風景を阻害してはならない。余分な色彩は風景の美を阻害するので不要。
人・車・舟など動くものはその範囲ではない。
地域全体を見渡し、何が大事か、何を目指すかべきかを前向きに議論し、現代の技術と素材を用い、誇りをもって優れた伝統を引き継ぎ、新たな取り組みをすることが国土と地域の美しい未来を創る。
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